寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
「そんなの、あのふたりが並んでいる姿を見れば、すぐにわかるでしょ」
「まあ、あのふたり、隠してるつもりで隠せてなかったからな」

 テオはくすりと笑った。

「兄さんとクラリーチェは、俺たちと同じで出会った時から両想いだったんだ」

 テオは『俺たちと同じ』という言葉を強調した。
 結婚して以来、テオの口からはセレナが喜ぶ甘い言葉が何度も出てくるが、セレナはまだ慣れずにいる。
 クラリーチェに恋愛感情を抱いた事はなく、カルロと結婚できるよう願い見守っていたと言われても、嬉しい反面、信じていいのかどうか、不安もつきまとう。
 テオが愛しているのはクラリーチェだと信じ込んでいた時間があまりにも長すぎたせいだ。
 とはいえ、テオはセレナが戸惑う様子を見せるたび、根気よく想いを注いでいる。
 今も、セレナが言葉に詰まっている姿に苦笑しながらも、諦めることなく言葉を続ける。

「愛してるよ、セレナを。こうしていつまでも抱きしめていたいと思うのはセレナだけだ」

 今日その言葉を聞くのは初めてだが、テオは毎日同じ言葉を繰り返す。
 まるで、テオを信じ切れていないセレナを洗脳するかのように。
 そうなれば、セレナだってテオを愛しているのだ、嬉しくないわけがない。
 しかし、テオへの報われない恋心に悩み、そしてカルロという婚約者がいるにも関わらず気持ちを揺らす自分に苦しみ続けていた過去は、なかなか彼女の心から消えてくれない。

「……でも、テオもお姉様を気にいっていたでしょ?」

 セレナはテオを試すように拗ねた口ぶりでそう言って、唇を尖らせる。

「そりゃ、親戚になるんだし、長い付き合いだから情はあるが、セレナ以外の女はどうでもいいって、ここではっきり言っておく」

 テオは胸を張ってそう言うと、セレナの肩に手を置き、向かい合わせた。
 セレナは恥ずかしさと嬉しさが溢れ、視線をどこに向ければいいのかわからずもじもじしてしまう。

「俺は、ここでセレナと初めて出会った時からセレナが欲しいと思っていたんだ。だけど、決められた結婚相手はクラリーチェで、面倒な事になったってむかついたな」

 当時を思い出したのか、テオの声は荒々しい。
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