寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
 テオはセレナから視線を逸らし、笑ってその場をごまかそうとした。
 ジェラルドの察しの良さについても、これまでの計画についても、セレナに話すつもりはない。
 計画を知ったセレナが自分は何も力を尽くさなかったと落ち込む姿を見たくないからだが、クラリーチェの体調がかなり悪いと見せかけたり、わざとテオは無能でお気楽なオトコだという振りをしていた事をセレナに知られたくないというのが本当のところだ。
 セレナには、互いを想う愛が運命を変えたと思っていて欲しい。
 黙り込んだテオの横で、セレナはふふっと笑った。

「大丈夫。わかってるからいいのいいの。親バカだって事、とっくに納得してる」
「……セレナ?」

 セレナは肩を揺らして笑い出す。

「陛下……リナルド陛下が親バカって事でしょ? そんなの子供の頃から知ってます。最近ますます親バカ加減は上向いているけど」
「は? 陛下?」

 予想外の言葉がセレナの口から飛び出し、テオは目を見開いた。

「そうよ。陛下っていつもテオの自慢ばかりでかわいいの。あ、これは絶対内緒ね」
「自慢って、まさか。愚痴の間違いじゃないのか?」
「そんな事ないよ。結婚が決まってからは特にそうだし、最近もテオの事を見た目よりもしっかりしてるし憎めないオトコだから何も心配する必要はないって自慢されたし、農業にも商売にも知識が豊富なテオが本当の力を発揮したら、ミノワスターの発展は間違いないって握りこぶしを作って力説されたし」

 思い出すように、そしてテオをからかうように話すセレナを前に、テオは言葉を失う。
 まだまだ王太子としての自覚が足りないと言ってはいつもテオを叱咤するリナルドが、まさかそんな風に考えているとは思わなかった。

「買いかぶりすぎだろ」

 テオはがっくりと肩を落とした。

「ね、親バカでしょ? 陛下の隣で王妃様もニコニコ頷いてらっしゃったし、ふたりともテオのことが大好きな親バカだね」

 セレナはそう言ってテオの顔を覗き込んだ。

「うわあ、顔が真っ赤だ。照れなくてもいいのに。親バカ、いいじゃない。私のお父様だって……ずっと知らなかったけど本当は親バカというか、優しいっていうか」

 ジェラルドを思い、柔らかな表情を見せるセレナに、テオはホッとした。
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