寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
 親バカだと呟いたのはジェラルドの事なのだが、まさかリナルドの事を言っていたと思いこむとは驚きだ。
 いつもカルロのような優れた王太子であれと口うるさく言ってはテオを怒らせる頑固者。
 そんなジェラルドを親バカだと言うセレナに訝しげな視線を向けるが、セレナがわざわざ嘘を言うとも思えず、テオはとりあえず納得した。

「だけどなあ、陛下が親バカって今更聞いてもなあ……」

 テオはぶつぶつ言いながらセレナを抱き寄せると、ふと思いついたように彼女の耳元に囁いた。

「俺は陛下に似ているとよく言われるから、きっと俺も親バカになるぞ」
「え……あ、そう、ですか?」

 テオの言葉に、セレナは照れる。
 吐息がかかった耳が熱い。
 そして、テオが父親になった姿を想像した。
 セレナを強く愛する姿から考えれば、王子であれ王女であれ、子供が産まれれば夢中でかわいがるだろう。
 子供たちと一緒にいたくて、侍女たち任せではなく自ら育てようとする姿も目に浮かぶ。
 セレナも自分の手で子供を育てたいと思っているからちょうどいい。
 片時も子供たちの側から離れず公務に支障が出たら困るが、その時はラーラに叱ってもらおう。

 セレナは近い将来現実になって欲しいあれこれを考え、口元を緩めた。

「どうした?」
「ううん。なんでもないの」

 セレナは首を横に振るが、親バカな姿を披露するテオを想像して心は温かい。
 そして、早くその姿が見られますようにと強く願う。
 テオも同じ気持ちだ。
 早くセレナとの子供が欲しい。
 自然と互いの身体を寄せ合い、唇を重ねた。
 軽く触れ合うだけのキスは、リップ音も聞こえないあっさりとしたものだが、一度交わすごとに笑顔を交わし、幸せを実感する。
 軽いキスが物足りなくなったテオの体は、次第に熱くなる。
 セレナを抱きしめるテオの腕の力も強くなり、セレナの唇を味わう時間は次第に長くなる。
 昨夜から明け方までずっとセレナを抱いていたというのに、セレナを求めるテオの愛情は限度を知らない。
 テオは昂る気持ちに逆らいきれず、思わずセレナのドレスをめくって彼女の熱をもっと探ってしまいそうになるが、ぐっと堪える。
 ここは明るい日差しが川面を輝かせ、遠くから鳥の鳴き声も聞こえる森の中だ。
 おまけに警護の騎士たちが、いざという時のために目につかない場所に控えているはずだ。
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