寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
セレナのワクワクしている様子を見て、テオは言葉を詰まらせた。
帰りの馬車でセレナとイチャイチャするのを楽しみにしていたのだが、まさかそれを言うわけにはいかない。
ミノワスターまでの道を馬で何度も走らせた事があるセレナに「危ないから無理だ」と言って止める事も無理だとなれば、承知するしかないだろう。
何が楽しくて馬に乗って帰らなければならないんだ。
テオは思わずそう言ってしまいそうになる気持ちをどうにか抑える。
「そうだな……まあ、いいけど」
「ありがとうございます」
大きな笑顔を浮かべ軽く飛び上がるセレナに、テオは曖昧にほほ笑んだ。
「じゃあ、さっさとサンドイッチを食べて、馬でのんびりミノワスターに帰りましょう。まあ、騎士たちがぞろぞろついてくるでしょうけど」
「ぞろぞろ……」
当然予想されることだが、テオの気持ちはさらに沈む。
セレナとふたりで楽しく過ごせるはずだった帰り道が……なんの楽しみもなくなった。
テオは空を見上げ、息を吐き出した。
どこまでも広がる青空に反して、テオの心は灰色だ。
「だけど……」
セレナがもぞもぞと動き、テオに申し訳なさそうな顔を見せる。
「なんだ?」
もしや自分ひとりで早馬にでも乗って帰るからテオには馬車でゆっくり帰ってこいとでもいうのではないかと、テオは警戒した。
セレナは不機嫌に聞こえたテオの声に躊躇しながらも、おずおずと言葉を続けた。
「あの、昨日からお疲れのテオには面倒かもしれませんが……私をテオの馬に乗せてもらえませんか? 一緒に馬に乗って、色々とお話しながら帰りたいです」
「一緒の馬に? そ、そうだな。大丈夫だ、よし、そうしよう。いや、疲れていないから気にするな。セレナが俺と一緒に馬に乗りたいっていうなら仕方がないな。ちゃんとしっかりと俺につかまってろよ」
セレナの言葉を奪い取るようなテオの声が、その場に響いた。
落ち込んでいた表情は一転、テオは明らかにセレナの言葉に大喜びしている。
馬にセレナを乗せて、後ろから抱きしめながらミノワスターまで帰ろう。
セレナが疲れないようゆっくりと馬を走らせてふたりの時間を楽しむのも悪くはないが、早く城に戻って誰に遠慮する事なく抱きしめるのも捨てがたい。
テオは眉を寄せ、悩む。