寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
 ぶつぶつと声に出している事にも気づかず、真剣に考えている。

「……ありがとう」

 セレナはテオに聞こえないほどの小さな声で呟いた。
 詳しい事は、聞いても教えてもらえないと、なんとなくわかっている。
 それでも、テオがセレナと結婚し、カルロがクラリーチェと結婚するまでにはセレナが知らない何かがあったはずだ。
 きっと、セレナに知られないようテオとカルロ、そしてクラリーチェ……もしかしたらジェラルドも加わって、国と国との運命を大きく変えてくれたのだと、セレナは感謝しているが、テオが言おうとしない事を敢えて聞くつもりもない。
 テオが何をどうしようと、セレナが傷つく事は決してしないとわかっているからだ。
 それに、これからずっと、テオの正妃として長い時間を過ごせるのだ、その幸せだけでセレナは満足だ。

「……何か言ったか?」

 相変わらず何やらぶつぶつ言っていたテオが、セレナの顔を覗き込んだ。
 セレナの声や動きには敏感なのだ。
 正式に王太子となって、さらに精悍になった顔に、セレナは見惚れた。
 テオの頬に両手を当てて、思い切り背伸びをすると、そのまま唇を重ねた。

「ん? セレナ?」

 思いがけないセレナからのキスに、テオは裏返った声を上げ、驚いた。

「どうしたんだ? いや、嬉しいからいいんだが、なんならもう一度でも」

 慌てるテオに、セレナはにっこりと笑った。

「いろいろありましたけど……テオと結婚できた私は幸せです。だから……」

 セレナはそこでひと息つき、気持ちを調える。
 そして、大きく跳ねている鼓動に負けないよう、勇気を出した。

「ずっと、テオが好きでした。テオと結婚したくて必死で頑張ってきて、もう疲れちゃいました。だから、あの……」
「セレナ?」

 言いよどむセレナに、テオは首をかしげた。

「あの、だから……もう、悩んだり頑張るばかりじゃなくて、ただ愛したいです。テオの側にいて愛し合いたいです」
 
 セレナは勇気を振り絞り、まるで叫ぶように、気持ちを吐き出した。
 言った瞬間力が抜けて倒れそうになった体を、テオが慌てて抱き止めた。

「セレナ……お、俺もだ」

 テオは抱き寄せたセレナの耳元に、熱い想いを落とす。
 セレナからそんな嬉しい言葉を言ってもらえると思っていなかった。
< 283 / 284 >

この作品をシェア

pagetop