寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
今も、赤い生地のことを口にした.
それはたまたまカルロが用意したものを見かけただけかもしれないが、セレナは何故か気になった。
カルロという優秀な兄の後ろで、いつも明るく気楽な物腰で周囲を和ませるテオ。
セレナに優しくするのも、必要以上に触れあおうとするのも、いずれ身内になるという気安さからくるもので深い意味はないだろうとセレナは思っているが、テオの言葉の真意はわからない。
そして、今耳にした宝石という言葉を考えていると、ふとあることに思い至った。
婚約が調った時、セレナはまだ十歳。
セレナの成長を待って婚儀を挙げることになったが、それまでに互いを知り合えたほうがいいということで、それぞれの国を行き来したり、贈り物をしている。
手紙のやりとりも、定期的に続けている。
セレナの十八歳の誕生日には、カルロからエメラルドのブローチが贈られた。
セレナが一番好きな色がグリーンだというのを知っていたのだろう、セレナは宝石が贈られるほどの大人の女性になれたのだと思えてうれしかった。
セレナはカルロにお礼状を書いて送ったのだが。
『ミノワスターの高価な宝石が似合う素敵な王妃になれるように、努力いたします』
そう書いた礼状を、テオは読んだのだろうか。
仲の良い兄弟だから、もしもそうだとしてもおかしくはないが、あれから一年が経った今でも、その文面を覚えているものだろうか。
セレナは隣でコーヒーを飲んでいるテオをちらりと見た。
普段と変わらぬ安定の男前。
何を思っているのか、ほんの少し上がった口元は優しく、セレナはその横顔をじっと見つめながら、このままテオの隣にいられたらと思う。
自分のものではないけれど、自分のものにできるのなら、テオがいい。