寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
「……なに見惚れてるんだよ」
じっと見つめるセレナの視線に気づき、テオは不敵な笑みを浮かべた。
セレナは息をつき「自意識過剰です」と答えた。
自意識過剰でつかみどころがない、そして特別な王子様だ。
けれど近いうちにその想いを封印してカルロのもとへ嫁がなければならない。
その後は、カルロのために自分の心も体も捧げようと決めている。
だから、せめてそれまでは、テオの隣で笑うことを、許して欲しい。
セレナは胸に溢れる悲しみを忘れるように、笑顔を浮かべた。
無理矢理上げた口角はかすかに震えていて、目はうるうると揺れている。
今にも涙がこぼれ落ちそうだ。
セレナは涙をこらえ、視線をカウンターの上の自分の手に戻した。
その時、アメリアがセレナの目の前に、パンと具だくさんのスープを置いた。
湯気が立っていて、おいしそうだ。
「さ、出来立てですよ。ジュリアをかわいがるのもいいですけど、セレナ様もご結婚されたらお子様を望む声が多くなりますよ。しっかり食べて、もう少し太ってください」
「お、お子様って、気が早いよ」
アメリアの言葉に、セレナは焦る。
結婚という言葉に悲しくなり、お子様という言葉に恥ずかしくなる。
けれどそのおかげで泣かずに済んだ。
セレナは気持ちを切り替えるようにスプーンでスープをかき混ぜた。
「スープにはセレナが好きなレンズ豆がたくさん入ってるな。さすがアメリア」
テオの言葉に、アメリアは誇らしげに胸を張った。
「あと何回、セレナ様にお料理を食べてもらえるかわかりませんけどね、精いっぱいセレナ様のために腕をふるいますよ」
「アメリア……」
セレナはその事に初めて気づいたように、弱々しい声で呟いた。
結婚すれば、アメリアに会う事も、彼女の手料理を食べる事も簡単にはできなくなる。
わかっていたのに、いざその現実に直面すれば、思った以上に胸が痛い。
セレナは黙り込み、ひたすらパンを食べ、一生懸命スープを味わった。
そんな様子を見守るテオの表情は、どこか苦しそうで、それでいて優しいものだった。