寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
◇ 二章
ランナケルドの市には近隣諸国から多くの商人が集まり、お祭りのように賑やかだ。
その日は学校も休みで、多くの農家は必要最低限の仕事を終えて市へと向かう。
各農家が自慢の農作物を露店に並べ、客との会話を楽しみながら販売に精を出す。
農家の子供たちも親と一緒に店に立ち、手伝いに励む。
そして、合間にはお小遣いを片手に友達と露店をめぐり、おいしい食べ物や飲み物を買って、普段とは違う日常を楽しむのだ。
市が立つようになってから百年以上が経つが、露店の数や扱う商品の種類、量は年々増加している。
ミノワスターから派遣された騎士たちによって治安が守られていることと、穏やかでいつも明るいランナケルドの国民性によって、市の秩序が保たれていることもその理由のひとつだ
ここに来れば、誰もが幸せな気分になれる。
それが、ランナケルドの市なのだ。
そして、ここ数年、市の象徴となっているのが王女セレナだ。
変装することもなく露店を見てまわり、国民と一緒に食事をしたり買い物に頭を悩ませるセレナの姿を見るのは市を訪れる人の楽しみのひとつであり、買い物ではなくそのために来る人も少なくない。
王宮の奥で床に臥せることの多いもうひとりの王女クラリーチェに代わって国事に参加することの多いセレナは、そのさばさばとした性格ゆえか、国民との距離も近く人気も高い。
彼女が馬に乗って町を走る姿を見る機会も多く、誰もが彼女に親しみを覚え、愛している。
いずれ隣国の王太子と結婚し、ゆくゆくは大国の王妃になるセレナの姿を見られるのもあとわずかだ。
その事も彼女への愛を強くしているのかもしれない。