寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
「セレナ様、これ、持って帰ってくださいよ。夕べから仕込んだ焼き豚です」
「セレナ様の似顔絵、描いてきたんです。売ればかなりの値が付くんですけど、まずはセレナ様にプレゼントします」
賑わう通りを歩けば、セレナを見つけた人々から声がかかり、セレナは思うように歩けない。
今もお目当ての店に向かって歩いているが、次々と声をかけられなかなか前に進めない。
けれど、たくさんの人から笑顔を向けられればセレナ自身も笑顔になり、手を振り呼びかけに応え、小さな子供がいれば立ち止まって抱き上げる。
今もほんの十メートルを歩くのに十分近くかかっているのだ。
セレナとともに歩くテオや護衛たちは、いつものことだと半ば諦め苦笑している。
「そのトウモロコシ、俺が持つからセレナははぐれないように俺の腕につかまってろ」
セレナをかばいながら歩くテオは、セレナの手からいくつかの包みを取り上げた。
そして、セレナの腕を掴み引き寄せた。
「大人気の王女様のお供は大変だな」
テオはくくっと笑い、周囲に愛想を振りまきながら歩いていく。
人込みをかき分け歩くその背を追うように、セレナはついていく。
「大人気なのは、テオなのに」
拗ねるように口にした言葉は、周囲の雑音にかき消され、テオには届かない。
セレナを見ようと集まる人々はたしかに多いが、見た目麗しいテオの姿を見ようと集まる人も多い。
今もあらゆる年齢層の女性がテオに熱いまなざしを向けている。