寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない


 セレナはふたりのやりとりを、ただ黙って見ていた。
 ミノワスターのテオ王子と言えば、女性からの人気が高く、これまでにも何人かの女性と噂があったが、その中でただひとり、意中の恋人と言われる女性がいたと思い出した。
 テオはいつもその女性を晩餐会に同伴させ、仲睦まじい姿を周囲に見せていると、ミノワスターの王宮を訪ねた時、侍女のひとりがぽろりと口にした。
 近い将来、クラリーチェと結婚し王配となるにもかかわらず、別の女性を側に置くテオのことを呆れるように言っていたが、セレナはこれまでテオから女性の影を感じることはなく、あまり深く考えていなかった。
 王室に対するゴシップかもしれないと、軽く流していたのだ。
 けれど、目の前で親しげに言葉を交わすふたりを見た途端、その噂を思い出した。
 意中の恋人……。もしかしたら、この女性かもしれない。
 セレナはふたりに気づかれないよう、そっと女性を見つめた。
 すると、その女性は両手を目の前で合わせ、ワクワクする気持ちを隠すことなくテオにせがんだ。

「そろろそ紹介してもらえません? あのセレナ姫が目の前にいるなんて、ドキドキしちゃう」

 ミノワスターの次期王妃となるセレナは、ランナケルドだけでなく、ミノワスターでも人気が高い。
 これまで何度かミノワスターに赴き、王や王妃、そしてもちろんカルロと過ごしているが、その際城下におりて人々と言葉を交わしたり、町で買い物を楽しんだりしている。

 馬を乗りこなし、剣の腕もかなりのもの。
 すでにミノワスターの歴史についても多くのことを学んでいるセレナは、王族からも国民からも熱い視線を注がれているのだ。

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