寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
「セレナ、いいか?」
「あ、う……ん」
テオがセレナの顔を覗き込んだ。テオの女性との噂をあれこれ思い出していたセレナは、突然目の前に現れたテオの顔に視線を上げた。
テオはセレナの背に手を置き、目の前の女性を紹介する。
「ミノワスターで大きな洋裁店を開いているアデリーヌだ。セレナよりもひとつ年上で、俺と兄とは子供の頃からのつきあいだ」
テオの言葉にセレナは軽く頷いた。
すると、アデリーヌが一歩前に出て、深く頭を下げた。
「ご挨拶が遅れまして、申し訳ございません。わたくし、ミノワスターで商売をしておりますアデリーヌと申します」
はきはきとした声に、セレナも慌てて頭を下げた。
「こ、こちらこそ、ご挨拶せずすみません。ランナケルドの王女、セレナです」
アデリーヌに負けないほど深く頭を下げるセレナに、テオは「お前、王女だろ?」と苦笑した。アデリーヌは王女に頭を下げられ、慌てている。
「セ、セレナ姫、頭を上げてください。あの、もったいない……」
頭を下げるセレナにアデリーヌはあたふたする。まさか王女が頭を下げるとは思わない。
「セレナ、もういいから頭を上げろ。アデリーヌが困ってるぞ」
テオはからかうようにそう言って、セレナの肩をポンと叩いた。
「え、困る……? あ、そうか……」
自分の立場を思い出し、セレナは頭を上げた。
「セレナ?」
黙り込むセレナに、テオが声をかける。
「あ、なんでもないの。えっと、こんなにたくさんの生地があるから、何を作ろうか考えていて……」
セレナは明るい声を上げた。
頭を下げていたせいで赤く蒸気した頬は、セレナの整った顔をさらに引き立てている。
濃紺の乗馬服に身を包んだ姿はきりりとした雰囲気を醸し出しているが、まだまだ少女のような面差しを残していて愛らしい。
テオはセレナの姿を見ながらふっと頬を緩めた。
アメリアの店で触れた襟足を目にし、再び唇を寄せそうになるが、目の毒だとばかりに視線を逸らし、堪えた。
その代わりというでもなく、テオはセレナの腰に手を回した。
微かに引き寄せられ、セレナは驚いたが、人混みの中、守ってくれているのだと納得する。