寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
「テオ王子……まったく……」
セレナに寄り添い、満ち足りた顔を見せるテオに、アデリーヌは力なく笑った。
セレナも照れてはいるが、嫌がっているわけでもない。
「まったく、面倒くさい」
「え?」
思わず口からこぼれたアデリーヌの言葉に、セレナが首をかしげた。
「あ、なんでもありません。えっと、セレナ姫に会えて光栄だなと思っているだけで……」
アデリーヌの慌てる様子に戸惑いつつも、彼女の明るい笑い声につられ、セレナにも笑顔が浮かぶ。
「それはそうと、しばらく城に来なかったから、心配していたんだ。……ちゃんと食べてるのか?」
アデリーヌを気づかうテオの声が頭上から聞こえ、セレナはアデリーヌに視線を戻す。
食事がとれないほど重い病気を患っているのだろうかと心配するセレナに、アデリーヌは軽く首を横に振った。
「大丈夫ですよ。最近ようやくつわりも落ち着いてきたので、またお城に伺います。とりあえず、今日はお勧めのものをたくさん用意したので、めいっぱい買ってくださいね」
「え、つわり?」
アデリーヌがさらりと口にした言葉にセレナは大きく反応した。
「あ、そうなんです。去年結婚しまして、妊娠しております。つわりがひどくて最近まで仕事はお休みしていて……でも今日は賑やかな市に来られるのが楽しみだったんです」
「だったら、人混みには気を付けないと」
セレナはアデリーヌの膨らみかけたお腹を気遣う。
「大丈夫です。テオ殿下が私の体調を気遣って騎士の方をこうしてここに置いて下さってますから」
店の脇に控えている騎士たちが、姿勢を正した。
「そうだな。騎士たちがアデリーヌを守ってくれるから、セレナは買う物をさっさと選べ。どれもキレイで見ごたえがあるけど……俺には違いがわからないな」
「ふふ。テオ王子はいつもセレナ姫のためにたくさんの生地を買って下さるお得意様です。先日の赤い布はいかがで……」
「アデリーヌ、うるさい」
言葉を遮るように、テオの鋭い声が響いた。