寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
露店を見て回る大勢の人々が一斉にテオを振り返り、怪訝そうな顔をした。
いつも軽やかに笑い、悩みひとつないように飄々としているテオの大きな声に、驚いている。
「あ……そうですね。口が過ぎました。申し訳ありません。私っていつもひと言多くて。主人にも叱られてばかりで」
アデリーヌは周囲の戸惑いを消すように笑い飛ばした。
すると、動きを止めていた人たちが、ホッとしたように歩き出した。
「テオ王子、セレナ姫の前だからって格好つけちゃだめだよ」
通り過ぎる人たちにからかわれ、テオは曖昧に笑う。
「アデリーヌ、いい加減にしろよ。余計なことを言わずに、セレナに生地を選ばせてやってくれ」
「あ、はいはい。すみませんね。……えーっと。何を作られるかによりますけど、どれも自慢のものばかりです。ミノワスターの職人たちが心を込めて織ったものや、遠方の国から買い付けたものもありますよ」
アデリーヌは露天に並べられた豪華な生地たちを次々手に取り、セレナに差し出した。
美しい文様が施されていたり、日差しにキラキラとした輝きを見せる生地を目の前にし、セレナは大きく息を吐き出した。
「どれもこれも、素敵……」
セレナは生地が積み上げられている店の中に、惹きつけられるように入っていく。
テオの腕から離れた事にも気づいていない。
セレナの生き生きとした表情を見つめながら、寂しくなった手を不自然に動かし、テオは苦笑した。
アデリーヌの店で買い物を済ませ、セレナとテオは目についた店の前で立ち止まった。
洋服や靴などを扱う衣料品の店の片隅に、数点の帽子があった。
テオが選んだのは水色のリボンが印象的な麦わら帽子だ。
テオはセレナの頭にそれを乗せると、一歩下がって見つめた。