寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
「よく似合ってるぞ」
「え? そ……そうかな」
「そろそろ暑くなるし、離宮の森にはこれをかぶっていけよ。日に焼けたセレナもかわいいけど、結婚式の時にまで日焼けしていたら、ドレスが映えないんじゃないか?」
セレナの頭の麦わら帽子を微妙に調整しながら、テオは「うん、かわいいかわいい」と呟き頷く。
長い髪を一本に編んで背中に垂らしているセレナにその麦わら帽子はよく似合っている。
加えて何度も「かわいい」と言われれば、それはもう買わないわけにはいかない。
セレナは近くにあった鏡に自分の姿を映した。
乗馬服に麦わら帽子は似合わないが、幅広のつばとリボンがかわいらしくて気にいった。
すると、セレナの背後に立って鏡に映る彼女を見ていたテオが、セレナの頭の上から麦わら帽子を取り上げた。
「これ、いくらだ?」
「え? どうして?」
驚くセレナを無視してテオは店の女の子に値段を聞くと、さっさと支払いを終えた。
「あ、あの、それは私が自分で買うつもりで」
「ん? 俺が見つけたんだから、俺が払う。それに、せっかく市に来てるんだから、滅多にしない買い物を楽しませろよ」
テオは麦わら帽子を再びセレナの頭に乗せると、ポンポンと軽く叩いた。
「黙ってると、かわいい王女なんだけどな」
「え、どういう意味?」
テオの言葉にセレナは素早く反応し、テオを睨んだ。
けれど、セレナが唇を結んで睨んでも、もともとかわいいその顔に、テオが動じるわけがない。
それどころか、小さなその顔に手を伸ばして引き寄せてしまいたいほどだ。
とはいってもここは人通りも多い市の中。
今もセレナとテオの様子を大勢の人々が見ている。
テオは苦笑し、口を開く。
「王女様にふさわしいドレスを着て黙っていれば、間違いなくかわいい王女だけど、国のために自分がしたいことを我慢して頑張ってるセレナはかわいいだけでなく、素敵な王女だってことだよ」