寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
テオの優しい言葉が、セレナの胸に響く。
したいことを我慢していることを、テオはどうして知っているのだろうと、ドキリとした。
剣の扱い方を教わったり、敵を押さえつける練習も、本当はしたいわけではない。
馬に乗るのは好きだが、それ以上にしたいことは幾つもある。
刺繍だって裁縫だって、料理だって。
もっともっとアメリアに教わって上手にできるようになりたいが、それに集中できる時間を捻出するのは難しい。
ふと表情を消したセレナの頬を、テオの指先がするりと撫でる。
「乗馬服も似合ってるけど、この麦わら帽子が似合う服を着て、ピクニックもいいな。アメリアと一緒に作ったサンドイッチでも持って、のんびり昼寝をして、夜は離宮のバルコニーから星を眺める……。それって、最高だな」
「……最高。うん、いいね、そんなことができたら」
テオの言葉を聞きながら、セレナは想像を膨らませる。
本当に、そんな日がくればいいと思う一方で、絶対に無理だと言い聞かせる。
テオが最高な時間をともに過ごしたいと想像しているのはセレナではない。
本来なら、こうしてテオと連れ立って市を楽しむのは、クラリーチェなのだ。
クラリーチェの体調が良ければ、間違いなくテオはクラリーチェと市に来ているはずだ。
セレナは頬を撫でていたテオの指先を恋しく思いながらしゅんと肩を落とした。。
俯いた途端、麦わら帽子がずれて落ちそうになった。
「あ……」
セレナは慌てて頭を押さえ、麦わら帽子をかぶり直した。
テオが選んでくれた特別な帽子はセレナの小さな頭をすっぽりと覆い、日よけにはぴったりだ。
ウェディングドレスを着るなら、日焼けは避けた方がいい。
テオに言われた言葉がセレナの心を刺した。
セレナがどれほど素敵なウェディングドレスを着ても、彼女の隣にいるのはテオではないのだから。