寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
◇ 三章
城門をくぐりぬけ城へと続く道を駆けながら、セレナは気持ちを切り替えようと軽く頭を振った。
規則的に上下する馬の動きに体を委ね、王女セレナとしての自分を取り戻す。
いよいよ城の玄関が見えた時、ふたりきりでいられた甘い時間の余韻をおしやるように息を吐き出した。
馬の足音を聞いたのか、城の警備担当の騎士たちが数人駆け寄って来た。
セレナは馬から降り、彼らに手綱を預けた。
「セレナ様」
数人の侍女が城から出てきた。
「セレナ様、お帰りなさいませ。市では何も問題はありませんでしたか……あ」
侍女頭のアンナがセレナに駆け寄るが、セレナの後ろにいるテオに気づいた途端、慌てて頭を下げた。
「テオ王子、ようこそいらっしゃいました。あ、セレナ様とご一緒で……」
まさかテオが一緒にいるとは思っていなかったのだろう、アンナは焦ってセレナを見た。
「びっくりでしょ? テオ王子の登場で、市も盛り上がったわよ。それに、素敵な生地をたくさん買ってもらったの」
セレナはいつの間にか横にいるテオを見ないようにしながらアンナに笑いかけた。
「まあ、そうでございますか。ありがとうございました」
アンナはテオに深々と頭を下げた。
すでに孫もいるアンナは、王城に仕えて三十年以上が経つベテランの侍女頭だ。
セレナを自分の娘、というより孫のようにかわいがり、行く末を心配している。
離宮ではアメリアがセレナを見守っているが、王城では侍女として長く働いているアンナがその役目を負っているのだ。