寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
「わかっていたけど、セレナ姫の人気はすごいな。子供たちにお絵かきをしようって誘われて、その場に座り込んで写生大会が始まったのには驚いた」
思い出し、肩を震わせて笑うテオに、セレナは恥ずかしそうに視線を逸らした。
「あれは……いつも一緒に絵を描いて遊んでるから、つい」
「つい、ね。まあ、みんな楽しそうだったからいいけど」
テオはぶつぶつと言い訳するセレナの頭をポンポンと軽く叩き、そのままさっさと城へと入っていく。
テオは近い将来住むことになるこの城に何度も来ていることもあり、その背中にはなんの迷いもない。
騎士たちを従える後ろ姿はたくましく、姿勢を正して歩く様子はとてもキレイだ。
それまで弾んでいたセレナの気持ちは一気にしぼんでいく。
考えるまでもなく、テオはクラリーチェの婚約者なのだ。
セレナは、今日一日感じていたときめきや、テオから向けられた柔らかく温かいまなざしになんの意味もなかったのだと、落ち込んだ。
婚約して以来クラリーチェを大切にし、体調が悪い時には見舞いの品をよこしたり、時にはテオ自らやってくる。
国同士が決めた政略結婚だとはいえ、ふたりは互いを大切に想い、気遣いあっている。
きっと、今日もクラリーチェが休んでいるベッドに腰かけ、優しく言葉をかけるのだろう。
何度か目にしたふたりの様子を思い出し、セレナは息が詰まりそうになる。
誰も、愛し合うテオとクラリーチェの間に割って入ることなどできないのだ。
「セレナ様?」
ぼんやり歩いているセレナを心配して、アンナが声をかけた。