寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
「顔色が悪いようですけど、お疲れですか?」
「……大丈夫よ。でも、市ではしゃぎすぎたのかもしれないわね。それより、お姉様の調子はどうなのかしら」
アンナを安心させるように、セレナは明るい声で問いかけた。
「クラリーチェ様は、昨夜から続いていた頭痛も治まったようで、さきほどお部屋で夕食を取られました。熱も下がったので、起き上がって、あの……」
そこまで話すと、何故かアンナは口をつぐんだ。
「え? なに?」
いつもはきはきと話すアンナが口ごもることは滅多にない。
よっぽど言いたくないことでもあるのだろうかと、セレナは眉を寄せた。
「お姉様に何かあったの? 今朝は顔を出さずに出かけたから様子がわからないんだけど……」
「いえ、そうではございません。あの……日中、ミノワスターの王の遣いとしてカルロ殿下いらっしゃいまして……」
「え、カルロ殿下がいらっしゃってるの? 突然だけど、何かあったのかしら? 今もいらっしゃるの?」
セレナの問いにアンナはためらいを見せたが、渋々といったように口を開いた。
「いらっしゃるにはいらっしゃるのですが……陛下とお話をされた後、クラリーチェ様のお部屋で過ごされてます」
「……そう、また、お姉様のお部屋に」
セレナは感情のこもらない声で呟いた。
「ですが、クラリーチェ様のお部屋には侍女のリリーが控えておりますのでふたりきりではございません。時折騎士たちも呼ばれて部屋を出入りしてますから、大丈夫です」
セレナの顔色をうかがうように、アンナが声を上げた。
「心配しなくても、大丈夫よ。カルロ殿下はお優しいから、お姉様の体調を気遣っているのでしょう」
「セレナ様……」
心配そうに視線を向けるアンナより先に、セレナは父がいるはずの執務室に向かった。
今日の市の様子を報告するためだが、心は揺れていた。
「そう……お姉様の部屋……」
セレナが小さく呟いた声は、歩みの遅いアンナの耳に届くことはなかった。