寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
王太子として忙しい日々を送りながらも、カルロは頻繁にランナケルドを訪れ、セレナと会う時間を作っている。
紳士的な態度を崩すことはなく、ふたりの距離を縮めようとすることもない。
ふたりが婚約した時セレナはまだ十歳で、婚約の意味もよくわからない子供だった。
その後成長し、今では自分が置かれている立場と、背負うべき義務も理解している。
けれど、カルロのセレナへの態度は変わらぬままだ。
それどころか、いざ結婚の話が具体的に進められそうになった今、変わらず他人行儀なカルロに、セレナは複雑な想いを抱いていた。
冷たくされるわけではないが、必要最低限の言葉と礼儀正しい笑顔しかもらえないのはどういうことなのか。
そんなカルロの節度ある態度は、セレナの父である国王陛下の覚えが良く、「カルロ殿下のような息子が欲しかった」と何度も口にするほどだ。
セレナもカルロを頼りにしているが、年齢差もあり、婚約者というより兄のような存在といったほうが近いかもしれない。
そして、カルロはセレナと過ごす時間よりも長い時間をクラリーチェと共に過ごしている。
そのせいか、セレナはいつの頃からかカルロはクラリーチェを愛しているのではないかと、感じている。
姉妹とはいっても似ていないクラリーチェとセレナ。
城の中にいるばかりで透き通るような肌を持つクラリーチェと、騎士とともに乗馬や剣の練習に励むセレナとでは見た目もまったく違い、物腰や言葉遣いもその差は歴然としている。
セレナは子供の頃からクラリーチェのはかなげな美しさに憧れているが、決してそれを手に入れることはできないと諦めている。
日焼けした肌や、細身だとはいえ筋肉がついた体は女性らしさからは遠く、男性に好かれる要素など何もないのだ。
しかし、生き生きとした表情で颯爽と歩くセレナの姿は人々の目を引き、王女としてではなく、人として周囲への心配りを忘れない彼女の姿はとても魅力的だ。
そう、決して、セレナがクラリーチェに劣っているわけではない。
けれど、子供の頃から父と母はクラリーチェにかかりきりで、セレナに目を向けることは滅多になかった。
その結果、自分はクラリーチェには敵わないと思い込み、カルロがクラリーチェを好きになるのも仕方がないと諦めている。