寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
その後市の賑わいや国民の様子を父である国王陛下に報告した後、セレナは落ち着いた色のドレスに着替え、クラリーチェの部屋に向かった。
王宮の奥にあるその部屋はかなり広く、日当たりもいい。
長い時間を部屋で過ごすクラリーチェの事を考えて用意された部屋だ。
セレナ同様クラリーチェも大好きなアメリアが焼いたパンを抱え、緊張しながら部屋に近づけば、ミノワスターの紋章を柄に記した槍を持つ騎士がふたり、立っていた。
カルロはまだ部屋にいるらしい。
騎士たちはセレナに気づくと微かに動揺し、とっさに部屋の前にたちはだかる仕草を見せた。
「……ご苦労様。開けていただけるかしら」
騎士たちの様子に気づかない振りで、セレナは部屋の前に立つ。
騎士たちはセレナの言葉に顔を見合わせ、躊躇している。
ドアを開けたくないのだろうか。
セレナは一瞬迷うが、クラリーチェはいつもアメリアのパンを楽しみに待っているのだからと自分に言い聞かせ、視線で騎士を促した。
騎士は渋々といった様子でドアに手をかけた。
「あ、あの、中には今……」
「わかってるわよ。カルロ殿下が中にいらっしゃるのでしょう? お姉様を気にかけてくださるなんて、お優しいわね」
セレナの淡々とした声に、騎士たちは苦しげな顔を見せた。
「いえ、あの、殿下はたしかにいらっしゃるのですが……あの」
「え? なに? 今入ったらまずいのかしら?」
「そんなことはございません、ただ……」
騎士たちはセレナを部屋に入れたくないのか、それ以上何も言わず口を閉じる。
カルロがクラリーチェの部屋をたびたび訪れることを気にしているのだ。
セレナは騎士たちを安心させるように小さく笑った。
「カルロ殿下がいらっしゃっても平気よ。リリーが中にいることも聞いているし、なんでもないわ」
「で、ですが」
変わらずドアを開けることを渋る騎士にしびれを切らしたセレナは、自分でドアを開けた。
「セレナ様……」
騎士たちの心配そうな声を背にドアを静かに閉めた。