寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない


 セレナの部屋と違い、女性らしい色合いで調えられたクラリーチェの部屋。
 部屋の奥にあるベッドを見れば、クラリーチェが体を起こし、たくさんのクッションを背にして座っていた。
 顔色はよさそうで、ベッドの端に腰かけているカルロとにこやかに話している。
 ここ最近クラリーチェの体調は悪くセレナと食事を一緒にとることもなかったが、今日は調子がいいらしい。
 カルロの見舞いがうれしいのか、聞こえる笑い声も弾んでいる。
 これならアメリアのパンも食べられそうだ。
 セレナがふたりに近づくと、ベッドの近くのソファに誰かがいることに気づいた。

「……テオ王子」

 セレナは思わず立ち止まった。
 クラリーチェの婚約者であるテオがここにいても不思議はないが、カルロとクラリーチェから離れたソファで書類を読んでいるテオの姿は妙だ。
 これではまるで、カルロとクラリーチェが婚約しているようだ。
 カルロと楽しげに話すクラリーチェの頬はほんのり赤く、口元を手で隠しながら笑う仕草には恥じらいが見える。
 昨日まで熱と頭痛でベッドに伏せっていたとは思えないほど元気で、そしてキレイだ。
 ここ数日、新しい騎士団長の就任式が近いこともあり、その準備で忙しくしていたセレナは、クラリーチェに会えずにいた。
 侍女から聞いていたクラリーチェの様子との違いに、驚いた。
 おまけに、クラリーチェがこれほどカルロと親密だとは思いもよらず、どう受け止めようかと混乱する。
 テオはテオで、そんなふたりの様子にかまうことなく、真剣な目で手元の書類を読んでいる。
 ほんの少し前まで一緒にいた、軽やかで華やかな王子様とは思えない真面目な様子にセレナはさらに混乱した。
 王子様と呼ばれるにふさわしい整った容姿と、誰に対しても人当たりの良い態度で接するテオの魅力をわかっているつもりでいた。
 しかし、真剣な目で書類に目を通すテオを見るのは初めてだ。
 すっととがった顎と、細く形のいい唇に目は奪われる。
 セレナはとくとくと音を立てる鼓動をどうすることもできず、じっとテオを見つめていた。
 すると、自分に向けられる視線に気づいたのか、ふと顔を上げたテオがセレナの姿を認めた。
 テオは一瞬眉を寄せ、戸惑いの表情を見せたが、すぐに明るく優しい笑顔を浮かべた。

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