寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
「セレナ、どうしたんだ? 夕食にはまだ早いのに、俺に会いたくて迎えに来てくれたのか?」
「あ、セレナ、来てくれたの?」
セレナに気づいたクラリーチェの声が部屋に響いた。
「もしかして、それはアメリアが焼いたパン? ありがとう、こっちに持ってきてくれる?」
クラリーチェはセレナが抱えるパンの包みを見て喜び、手招きした。
「お姉様……体調は、どうなの?」
セレナはクラリーチェのもとへ歩み寄る。
「今日は気分がいいの、朝からちゃんと食事もしたし、久しぶりに髪を編んでもらったの」
「そう……。顔色もいいし、良かったわね」
セレナはクラリーチェに笑い返し、彼女に包みを手渡した。
そこにはアメリアが焼いたパンがたくさん入っていて、包みを開いた途端、おいしそうな香りが広がった。
「私の大好物のミートパイは……、あ、あった。さすがアメリア、忘れてないわね」
クラリーチェは袋の中を覗き込み、弾んだ声を上げた。
「セレナはお店でたくさん食べたんでしょ? だったら、このパンは私が全部食べていいのよね」
わくわくした目で、クラリーチェはセレナに問いかけた。
「え、全部?」
「そうよ。セレナはいつでもお店に行ったり、離宮でアメリアにお願いできるでしょ? だからこれは、私が全部食べるの」
「い、いいけど……」
セレナはクラリーチェの言葉に口ごもった。
アメリアのパンはたしかにおいしいが、袋の中には十個以上のパンが入っている。
クラリーチェがひとりで食べるにはあまりにも多い。
セレナはどうしようかとベッドの端に腰かけているカルロに視線を向けた。
すると、カルロは袋の中を確認し「うまそうだな」と呟いた。
「俺はこのバゲットが好きなんだ。そのまま何もつけずに食べるのが一番おいしいよな」
そう言いながらバゲットをひとつ取り出すと、それを口にした。