寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
「何度か離宮を訪ねた時にうまい料理を出してくれたけど、このバゲットは格別だな」
勢いよく食べるカルロにつられて、クラリーチェもミートパイを取り出し、食べ始めた。
ベッドの上で食べているのをアンナに見られれば怒られるに違いない。
けれど、食が細いクラリーチェがおいしそうにパクパクと食べる姿がうれしくて、セレナは何も言わずにいた。
考えてみれば、体調が優れないクラリーチェはいつもこの部屋で食事を取っている。
彼女が食べる姿を見るのは久しぶりだ。
そして、あっという間にミートパイを平らげたクラリーチェを見ながら、思っていたよりも元気な様子にホッとした。
「これこれ、この味。アメリアのミートパイはやっぱり最高。また作ってって言っておいてよ」
「うん。わかった。お願いしておく」
セレナの言葉に満足そうに頷いたクラリーチェは、続けてクロワッサンを食べたかと思うと、よっぽどおいしかったのか、さらに袋に手を伸ばそうとした。
しかし、その手はカルロにやんわりと止められた。
「……あまり体調がよくないんだろ? この辺でやめておいたほうがいい」
「え? まだ大丈夫。ホワイトロールを食べようかと思っていて……」
袋の中を覗き込み、ウキウキしながら手を伸ばそうとしたクラリーチェの手を、カルロが掴んだ。
「体調が悪くて、しばらくあまり食べてなかったんだろ? 一気に食べるとまた寝込むことになるんじゃないか?」
カルロはクラリーチェの目をじっと見ながら、ゆっくりとそう言った。
普段からカルロは説得力のある低い声で話すが、今クラリーチェに向けた声にも、子供のわがままを諭すようなゆったりとした、それでいて反論は許さないというような強さが交じっていた。
クラリーチェを見る目には彼女をちゃんとわかっているとでもいうような自信も感じられた。