寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
そうか、やっぱり。
セレナはカルロの横顔を見ながら、自分の勘が外れていなかったと納得した。
カルロはしゅんとなったクラリーチェの頬をするすると撫で、耳元に何かを呟いた。
すると、クラリーチェは目を見開き、セレナに顔を向けた。
慌てているようだが、セレナは彼女が何を考えているのかわからない。
「どうしたの? 慌てて食べたから疲れたの?」
セレナは、どこか焦っているクラリーチェの様子が気になった。
「そんなことないよ。えっと、アメリアのパンはやっぱりおいしいしから、体調が悪い私でも食が進むわよね」
何故か早口で話すクラリーチェに、セレナは首をかしげた。こんなに慌てる彼女を見ることは滅多にない。
「最近食べてなかったんでしょ? そのパンは全部お姉様にあげるから、ゆっくり食べて。どうせ、私に横取りされると思って急いで食べたんでしょ?」
「あ……ううん、そうじゃなくて……じゃなくて、そう、そうなの。ずっと体調が悪かったから寝込んでいたのに……えっと、久しぶりにおいしいものを目の前にして慌てて食べたし、セレナに取られたくないし、疲れちゃってね。ははっ」
クラリーチェは、上ずった声で笑った。
「いくら私がアメリアのパンが大好きでも、お姉様のパンを横取りするようなことはしません」
「そうよね。セレナなら食べたくなったら、すぐにでも馬に乗ってアメリアのところまで行っちゃうものね。……いいわね、セレナは」
セレナを羨むようなクラリーチェの言葉に、セレナは口をつぐんだ。
自分の弱い体を気にしていないように明るく笑っていても、やはりクラリーチェは悩んでいるのだ。
「あらら、そんな顔をしないでよ。……セレナ、私、本当はね……」
「クラリーチェ姫」
セレナを気遣うクラリーチェの言葉に被さるように、カルロの鋭い声が響いた。
「あ……」
クラリーチェはハッと口を閉じ、両手で口を押えた。
「お姉様……?」
どこか不自然なふたりのやりとりに、セレナは首をかしげた。
「あの、どうかしたの?」
「ううん、なんでもない。大丈夫大丈夫」
両手を口に当てたまま、クラリーチェは首を横に振った。
自分の感情を見せることの少ない彼女がこうも必死になっている姿はやはりおかしい。