寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない


「あーあ」

 セレナはしゃがみ、バスケットから飛び出した水筒やひざかけをバスケットに戻した。

「あ、あそこにも……」

 少し離れた場所に、白いハンカチが落ちていた。

 セレナは立ち上がり、テクテクと歩いてそれを拾い上げようとした。
 するとその時、セレナが手にするよりも早く、すっと誰かの手が伸びハンカチを拾い上げた。

「え?」

 目の前からハンカチがなくなり、慌てて視線を上げれば、ひとりの男性が立っていた。
 その手にはセレナの白いハンカチがあり、じっと見ている。

「へえ、キレイな花だな」

「か、返して」

 セレナは立ち上がってそのハンカチを取り返そうと手を伸ばした。
 けれど、一瞬早くその男性は体を逸らし、ハンカチを持つ手を遠ざけた。

「どうして? 返してよ」

 セレナはピョンピョンと飛び上がり、ハンカチを取り返そうと手を伸ばすが、セレナよりも背が高い男が相手だ、届くことはない。
 男性は必死に飛び跳ねるセレナをくくっと笑い、手を上げたままハンカチを広げた。

「これ、セレナが刺繍したのか?」

「そ、そうよ。アメリアに教えてもらって一生懸命……え? どうして私の名前を知ってるの?」

 それまで手を伸ばしてハンカチを取り返そうとしていたセレナは、びっくりして動きを止めた。


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