寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
カルロがクラリーチェの手からパンが入った袋を取り上げた。
「これが食べたかったら、まずは夕食をちゃんと食べなきゃな」
そう言ってクラリーチェの頭を撫でる仕草はとても優しく、瞳はクラリーチェだけを見つめている。
「殿下……」
カルロに見つめられ、頬を赤らめ俯いているクラリーチェの可愛らしさに、セレナは思わず見入った。
もともと愛らしく、色白の肌が際立つクラリーチェの顔が、さらに魅力を放つ。
カルロによって、彼女の女性としての美しさが引き出されたようだ。
やはり、カルロはクラリーチェを愛し、クラリーチェもカルロのことを慕っている。
ふたりの間に漂う甘い空気を感じ、セレナはそう確信した。
「……どうしよう……」
セレナは、自分たちの立場ではどうする事もできない想いにどう折り合いをつければいいのだろうかと、深くため息を吐いた。
国の未来を左右する結婚を覆すことはできない。
セレナ自ら望んだものではないとはいえ、カルロと結婚しなければならないと子供の頃から言われ、納得していた。
たとえ自身の想いがテオにあるとしても、その想いを伝えることはできないとわかっている。
それに、セレナはテオの気持ちがどこにあるのかわからない。
会えばセレナを愛しいと思っているのではないかと錯覚させる甘い言葉と仕草で戸惑わせる。
まるでセレナの恋心を知っていてからかうような、掴みどころのない態度に、セレナは翻弄されっぱなしだ。
今も、テオはソファに座り、大したことではないようにセレナたちを見ている。
その視線を意識して、セレナの体は熱くなる。
テオは婚約者であるクラリーチェではなく、セレナばかりを見ている。
もしかしたら、テオも……。
セレナは、自分に都合の良い考えを振り切るように、ふるふると頭を振った。