寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない

「どうしたの? 頭が痛いの?」

 セレナの様子に、クラリーチェが首をかしげた。

「この間、馬から落ちたんでしょう? その時頭も打ったんじゃない?」
「ううん、大丈夫。頭痛もしないし、あの時は肩を打ちつけただけで、心配するほどじゃないから」

 セレナは明るい声で答えた。
 クラリーチェは納得できないような顔で「それはそれで心配だけど……」と呟いた。
 セレナはテオへの恋心がクラリーチェにばれているのかと緊張したが、すぐに笑顔を作った。
 切ない想いは胸にしまいこみ、早く気持ちを切り替えなければならない。

「じゃあ、私は部屋に戻って市で買ったものを整理しなくちゃ。たくさんの生地と糸をテオ……王子が買ってくれたから、お姉様にもまた、何か作るわね」

 セレナはテオの名前を口にした途端、背後にいるテオの息遣いを感じた気がした。
 そして、市でテオと過ごした夢のような時間を思い出し、体が熱くなる。
 楽しい時間はあっという間だったと、切なさも入り混じる。

「ありがとう。じゃあ、キレイな刺繍入りの栞がほしいんだけど、作ってくれる?」

 期待しているのがわかるクラリーチェの瞳に、セレナは何度か頷いた。

「栞なら、すぐに作れるから、楽しみにしていて」
「うん。でも、急がないから、いつでもいいわよ。だけど、男性並みに動き回るセレナが刺繍の達人だなんて、感心するわ。私は何もできないもの」

 クラリーチェはそう言って苦笑した。
 実際は、できないのではなく、クラリーチェの体調を心配した父と母がさせなかったというのが正しい。
 体力を使って何かに集中するよりは、のんびりと本でも読んでいなさいと言われていたせいで、何もできないまま成長したのだ。

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