寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
「これから興味のあるものを見つけて頑張ればいいんだよ」
何も満足にできないと肩を落としているクラリーチェに、カルロが声をかける。
「どちらかといえばクラリーチェのように何もできない姫のほうが多いんじゃないのか? セレナ姫みたいに早馬を乗りこなしたり、料理長と一緒に料理に精を出す姫なんて滅多にいない」
クラリーチェを励ますようにそう言うと、カルロはふと思いついたように、セレナに視線を向けた。
「その滅多にいない王女様がこの間焼いてくれたキッシュ、本当においしかった。あまりにもおいしくて、テオと取り合いになったくらいだ」
カルロはセレナに大きな笑顔で頷いた。
「え、あ……あの」
セレナは照れて顔を真っ赤にした。
「……結婚して、ミノワスターに来たら、陛下と王妃にも作ってさしあげてくれ。あのふたりもキッシュが大好物なんだ」
「あ……はい。よろこんで」
結婚という言葉がカルロの口から出て、セレナは口ごもりながら、無理矢理笑顔を作った。
やっぱりそうなんだと、現実を見せられたようで、落ち込んでしまう。
ミノワスターに行くということは、すなわちカルロと結婚するということだ。
ミノワスターの王太子妃になるという未来は変えようがないと、改めて実感する。
セレナは落ち込む気持ちを隠すように顔を逸らした。
すると、その様子を鋭い目で見ているテオが視界に入った。
目を細め、ただセレナを見つめている。
口もとは引き締められ、瞳には何かを決意しているような強い光が揺れている。
明るく軽やかで頼りにならない王子様と呼ばれる彼とはまったく違う重々しい様子に、セレナは目を奪われた。