寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない
焦るセレナのかわいい姿に、男性は目を細め、にっこりと笑う。
自分よりも年下の女の子、かなりかわいい。
まだ十歳くらいだろうか、キレイというよりもかわいい女の子。
ランナケルドのセレナ姫だ。
姉のクラリーチェが「美しい妖精」と呼ばれる一方で、妹であるセレナは「太陽の天使」と呼ばれている。
微かに赤くなっている白い肌は生気に満ちていて、長い手足とすらりとした体。そして、くりくりと動く好奇心豊かな瞳。
周辺国の王子たちからの縁談が後を絶たないというのも納得できるほど、セレナの愛らしさはかなりのものだ。
今はハンカチを気にしながらもチラチラと男性を見ながら顔を赤らめている。
晩餐会用に仕立てられた豪華なドレスは草や土で汚れ、おまけに素足だ。
男性はその姿がおかしくて、肩を震わせた。
「太陽の天使って呼ばれるのが、ぴったりだな。お嬢ちゃん」
視線を合わせたままそう言うと、男性はセレナの頬についていた土を指先で払った。
「あ……な、なに」
突然顔に触れられて、セレナはびっくりする。思わず両手を頬にあてた。
「元気なのはいいけど、せっかくキレイにしてもらったのにもったいない。ドレスを仕立てた人が悲しむぞ」
男性はセレナのドレスについている汚れを見ながら眉を寄せた。
「刺繍が大好きなら、針と糸を使う楽しさや大変さはわかるだろ? こんなにキレイなドレスを仕立てるにはかなりの時間がかかってるはずだ。仕立ててくれた人の気持ちを考えなきゃな」
静かな口調でそう言い聞かされ、セレナはハッとした。