寵愛婚―華麗なる王太子殿下は今日も新妻への独占欲が隠せない


 アメリアが作ったおいしい朝食を食べた後、クラリーチェはソファに腰かけ体を休めた。
 いつもより調子がよく、朝から散歩に出ていたらしいが、さすがに疲れたようだ。
 クッションを抱きながら背もたれに体を預け、隣に座ったセレナが刺繍する様子をまじまじと見ている。
 迷わず針を刺す動きは的確で、セレナの口もとは楽しげに上がっている。

「ほんとに器用よねー。私の方が部屋に閉じこもってるから上達しそうなのに、なかなか上手に刺せないのよね」

 白い布にあっという間にブルースターの花の刺繍を終えたセレナに、クラリーチェは羨ましそうな声で呟いた。

「お姉様だって、この間ハンカチにマーガレットの花を刺繍していたでしょ? とてもキレイに出来上がっていたと思うけど」
「あー、あれね。セレナのこの刺繍に比べたら駄作よ、駄作。上手にできたらカル……じゃない、テオ王子にプレゼントしようかと思ったけど、やめたわよ」

 クラリーチェの口からテオの名前が飛び出して、セレナはドキリとした。
 婚約者なのだから、テオにあげるのは当然で、セレナも何度かカルロにハンカチを贈った事がある。
 それはカルロを象徴する花とされているマーガレットの花を刺繍したのだが、それは騎士との訓練にも音を上げないセレナからは想像できないほど繊細で、誰もが感嘆の声をあげるほどの素晴らしい出来栄えだった。
 ランナケルドやミノワスターを含む周辺国の多くでは、女性は恋人や夫に本人を象徴するものを刺繍して贈る習慣がある。
 セレナもそれに従って、カルロにはカルロの象徴とされているマーガレットの刺繍入りのハンカチを贈るのだが、テオに頼まれて彼の象徴であるブルースターの花を刺繍する事もある。
 もともとブルースターの可憐な見た目が大好きで、子供の頃から何度も刺繍しているが、もしかしたらそれは、マーガレットを刺繍した回数よりも多いかもしれない。
 そのせいか、何を刺繍するよりも、ブルースターの刺繍の仕上がりは極上で、今も短い時間であっという間にキレイな花を咲かせた。


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