愛も罪も
第12章 晩熟の結晶
1
「どうかしたのか?」
ベッドの上に仰向けになり顔だけを横に向け、何時もと様子の違う悠に言葉をかける。悠に拾われてから、まだ調子が万全では無いa2は、今もこの部屋で悠に厄介になっていた。
全身の力を抜いて足を放り出し、椅子に浅く腰掛け天を仰いでいる悠。学校から戻るなりもう20分もずっとそうしている。
抜け殻と化した理由をa2に訊かれ、焦点の定まらないまま譫言でも言う様に口を開いた。
「自分でも判らないんだ。どうしてあの時…」
理奈をあんなにも強く抱き締めたのか……。
脳裏にその情景が思い浮かぶ。途端に悠の眼に淡靄の光が広がって行く。
「なんだ、どうした?」
悠が言葉を止めたので、その先に何があるのかを促す。
一瞬妙な間を置き、突然勢い良く椅子を跳ね除ける様に悠は立ち上がり、足早にドアへと向かう。
「風呂行って来る」
a2の言葉など耳に届いていないかの様に見向きもせず、大きな音をさせてドアを閉め部屋を出て行った。