愛も罪も


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 何の感情も抱かず、ただ、モノを斬る事にだけ集中して、冷たく冴えた光を宙に踊らせ、見事な手捌きで粉砕する。その瞬間の恍惚とした空気の中に、愚劣と虚無を垣間見て顔を背けた。

 鋼がチップへと変形しケースに収められると、突如体が地へと吸い込まれて行くのを感じ、その反動で体がそれを拒否し足が空を蹴る。

 頭の中の映像が溶けて消えて行く。

 軈て意識は鮮明になりゆっくりと目を開いた。

 それが夢だと気づき深く息を吐き目を閉じる。虚脱感からか一斉に毛穴から汗が吹き出した。

「………」

 上体を起こし、左の掌で頭を抱える様に汗を拭い、その手を布団の中へ潜り込ませると、スウェットのポケットから白いカプセルを二錠出す。それを口に放り込みペットボトルの水を流し込んだ。

 自分の部屋へと戻る為、痛みに耐えられる様、鎮痛剤を服用する。

 胸部の痛みを堪えて立ち上がると、壁に掛けてある、黒く光沢のある上着を取りに行く。多くをベッドの上で過ごしていた為、体の重心が何処にあるのか定まらないみたいに、歩くのにふらついてしまう。

 悠に借りていたスウェットから何時も着用している自分の服に着替えて、久々に上着を身に纏い、出窓に置いていたゴーグルを首に掛けると、ガラス戸を開けてベランダへと立つ。

 悠が学校へ向かった後、a2は再び浅い眠りに就き、目覚めた時には陽が高い位置へと上昇していた。

 他人の部屋から眺める見慣れぬ風景に違和感を感じながらも、澄んだ空気に気を和ます。数日室内に籠もっていた間に風は随分と冷たくなっていた。その髪を撫でる風や、久々に身に受ける空気が、肌に心地好かった。そして目を閉じて大きく深呼吸する。

「……っ!」

 酸素を吸い込み切らない内に胸の痛みによって呼吸を止めた。左手で胸を押さえて体を縮める。そして胸に負担を掛けない様にゆっくりと息を吐き出した。

「やはり一度戻らねばならないか…」

 食事は一日に二食取るか取らないかといった状態で、体を動かしていなかった事もあり、体力がかなり落ちていた。一度医療部に戻って検査をし、少し休息してから任務に臨んだ方が良さそうだ。

 戻った後の周囲の反応を予測してa2は渋面する。結局は醜態を晒す事となる。それは避けられそうに無い。念わず鼻から小さく息を吐いた。

 ガラス戸を閉め部屋へと向き直り全体を見回した。ここには四日しか居なかったが、何故だか少し名残惜しくも思えた。

「全く…掻き乱された数日だったな」

 僅かに口元に笑みを浮かべると、ゆっくりとドアへと向かいその部屋を後にした。


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