エリート上司の過保護な独占愛
第一章  最初から両想いの恋などありません
「婚約、おめでとう!」

 貸し切りの都内のカフェバーに、大勢の祝福の声が響き渡る。打ちっぱなしのコンクリートの壁には、新進気鋭のアーティストが多彩な色遣いでの絵が描かれている。広い店内は、エリアによって使われている家具のテイストが違うが、なぜか統一感を感じる空間だった。

 いつも大勢の客で満員のこの店、今日は一組のカップルの婚約を祝うというひとつの目的のために皆が集まっていた。

 本城紗衣(ほんじょうさえ)も、その中に混ざり職場の先輩でもある濱中絵美(はまなかえみ)とその婚約者、三谷慎吾(みたにしんご)への祝福の声を上げていた。
 
皆にかこまれて笑顔を浮かべるふたり。紗衣は、その輪の少し離れたところで、乾杯のために持っていたオレンジジュースをひと口飲んで、笑顔でふたりを見守っていた。

「幸せそうだなぁ」

 ふたりを見ていて思わず本音がぽろっと漏れてしまう。その言葉たっぷりと羨ましさが込められていた。それも仕方のないことだ、今日のふたりは誰もがうらやむほどの幸福で満ち溢れているのだから。

 会場にいる皆が沙衣同様、笑顔で彼らを祝福していた。

「本当に、幸せそうだな……、ふたりとも」

 背後から声をかけられ振り向くと、そこに知った顔があって驚いた。

「天瀬(あませ)課長っ!」

 絵美の上司で、慎吾の親友でもある天瀬が来ることは知っていたはずなのに、実際に声をかけらて驚いた紗衣は、自分で思っていたよりも大きな声が出てしまい、慌てて口を押えた。

「あはは、本城でもそんな顔するんだな」

「いえ……あの、はい」

 いったいどんな顔をしていたのか、知りたいような、知りたくないようなそんな複雑な気持ちに駆られる。
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