エリート上司の過保護な独占愛
 最初にその恋心に気がついたのは、入社して三ヶ月目。やっと一日の流れがつかめはじめたころに、やったことのない仕事を営業に頼まれた。

沙衣は初めてであることを伝えたうえで、説明を聞きデーターの入力を行ったのだが、そもそもその元になる数字に問題があった。
 
今であれば、その数字がおかしいことにすぐに気がつくはずだが、新人の沙衣がそれに気がつくことはなかった。

 もちろん出来上がった資料は使い物になるはずもなく……こっぴどく叱られた沙衣は理不尽だと感じながらも「すみません」と謝ったことがあった。

 それだけならばよくある話だ。自分の確認不足でもあると思い気を取り直していた。

しばらくたってから廊下を歩いているときに、聞こえてきた話し声に自分の名前を聞いて、足を止めた。

その声は、自動販売機が置いてあるリフレッシュブースから聞こえてきた。盗み聞きはよくないと思う。けれど止まった足が動いてくれない。

「新人に仕事頼んだせいで、余計な仕事が増えた。もういい加減にしろっていうの。ただでさえ、あんな辛気臭いのが配属されてがっくりきてるのに」

「おい、お前ってばいいすぎだって。まぁ、確かに地味だよな」

「そうだよ。見かけが〝アレ〟なんだから、仕事ぐらいしっかりしてほしいよ。それに比べ、お前んとこはいいよな。今度合コンセッティングしてくれよ」

 男性社員にとっては、少しの愚痴のつもりだったのかもしれない。しかし沙衣にとっては仕事でミスをしたうえに、それとは関係ない性格を否定されショックを受けた。

 男性社員たちはまだゲラゲラと笑っている。

 早くこの場を離れないと見つかってしまう。そう思うけれど足が動いてくれない。そんな沙衣の肩を誰かが叩いた。
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