エリート上司の過保護な独占愛
「どうぞ」

 声をかけると今回の打ち合わせの参加予定の三人以外に、もうひとり見知らぬ女性が一緒に入ってきた。すらっと背の高い洗練された姿は、目を引く。いくら社内事情に疎い沙衣でも、これだけ目立つ人が社内にいたなら、知らないはずはない。

(誰だろう……)

 不思議に思い、大迫を見るとうなずいていたので彼は彼女が誰なのか知っているようだった。
それよりも気になったのが裕貴の表情だ。本当に驚いた様子で、そのあと一瞬眉間に皺を寄せた。それは沙衣だから気が付いたけれど、その場にいた他の誰も気が付いていないくらいわずかな時間だった。

「ユニヴェールの藤本です」

 立ち上がって挨拶をする、藤本の声で沙衣は我に返る。

(いけない、ぼーっとしちゃ。集中、集中!)

 裕貴の表情が気になったものの、打ち合わせのために席に着いた。

 大迫が技術開発のふたり、佐藤と石川、それと社内デザイナーのひとり、草野の紹介を終えて一呼吸置いた。

「そして、今回のメインデザイナーを務めてもらうのは、桧山(ひやま)みどりさんです」

(桧山みどりさんって……あのスタジオHの?)

 沙衣同様、藤本も驚いているようだった。

「まさか、本当に? スタジオHさんと一緒に仕事ができるんですかっ? すごい!」

 藤本は興奮を隠しきれない様子で、口元に手を持っていき声をあげている。

 スタジオHといえば世界的に有名なデザイナー桧山ケイジが主宰しているデザインスタジオで、そこでのテキスタイルは各分野でも人気だ。

 桧山みどりは、ケイジの妻であり彼女もまたスタジオHの看板デザイナーであった。「実は、彼女結婚するまではうちのデザイン部にいたんです。私たち同期なんですよ」

 うちのデザイン担当の草野の説明に、有名デザイナーがこの席にいることに納得する。
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