エリート上司の過保護な独占愛
「ふ~」

 給湯室でスティックタイプのコーヒーを淹れて、行儀が悪いとわかっているけれど、ひと口飲んだ。緊張でこわばっていた心も体も、この一口で幾分か和らいだ。

(みどりさん……素敵だったな)

 仕事には皆それぞれ役割りというものがある。それは十分わかっているが、才能の塊のような人を目の前にすると、とたんに自分をちっぽけに感じてしまう。

 仕事がうまくいった高揚感と、自分の力不足を感じ疲れ切っていた。

(さっさと、残りの仕事を片付けよう。だって……今日は)

 マグカップを口に当てたまま思わずニンマリしてしまう。ポケットの中にある裕貴の部屋の合鍵を思い出すと、また少し元気になった気がする。

 そうとなっては、ここでゆっくりとコーヒー休憩をしているわけにはいかない。気給湯室から出ると、そこに向こうから歩いてくる裕貴を見つけた。

「お疲れ様です」

「あ、ああ……ちょっといいか?」

 裕貴がキョロキョロと周りを見渡していることから、仕事の話ではないようだ。背中にそっと手を添えられて、出てきたばかりの給湯室に逆戻りした。

「悪い、今日の予定だけど、キャンセルしてくれ」

「えっ……かまいませんが、何かあったんですか?」

 さっきまでそれを糧に残りの仕事を片付けようと思っていたのに、本当は残念で仕方がない。しかし、裕貴にも致し方ない事情があるのだろう。そう思って尋ねた。
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