エリート上司の過保護な独占愛
「仕事のことで、どうしても人と会わなくてはならなくなったんだ」

「もしかして、またドイツの企業の件ですか? それ以外なら私もお手伝いしますけど」

 通常の業務なら、沙衣でも手伝えることがある。それに仕事を一緒にしている間は、一緒にいられる。

「あぁ、まあ……そんなところだ。沙衣が心配するようなことじゃない」

「……そうですか」

 仕事だから仕方がないとわかっている。裕貴の仕事がここ最近目に見えて忙しいのもそばにいるから理解している。それでも思わず顔に、残念な思いが出てしまう。

「悪かった……埋め合わせはするから」

 コクンとうなずいて、ポケットの中から合鍵を取り出した。

「じゃあ、これはお返ししておきます」

(うれしかったのにな……でも、またきっと使う機会はあるはずだし)

 しかし差し出した鍵を、裕貴がもう一度握らせた。

「これは、紗衣に持っていてほしい」

「え? いいんですか?」

 ほんの数秒前まで落ち込んでいた気持ちが、少し浮上する。

「あぁ、いつでも来たいときに来て構わない」

「はい。ありがとうございます」

 我ながら現金だと思う紗衣だったが、笑顔を浮かべた彼女を見て裕貴も少し安心したようだ。
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