エリート上司の過保護な独占愛
「草野さん……何かありましたか?」

 今日の打ち合せで何か不備があったのかと思い、尋ねた。

「いえ、別に急ぎの用事ではないんだけど、天瀬課長は?」

「今日は、仕事先から直帰するみたいです」

 草野は紗衣の視線を追って、ホワイトボードを確認した。

「そうなんですか。まぁ明日にでも確認します。あ、そっか、そっかもう行っちゃったんですね」

 急に何かを思い出して、妙に納得した草野を不思議に思う。

「さっき桧山さんが、うれしそうに『天瀬課長に会う』って言ってたのよ」

「え? どうしてですか?」 

 今回裕貴は、サポートに徹していてあくまでも、中心で動いているのは大迫だ。だから何か確認したいことがあれば、大迫に尋ねればいい。

 それになにより気になるのは〝うれしそうに〟という言葉だ。

「あれ? そうか知らないのか……実はね、あのふたり昔付き合ってたのよ」

 一瞬誰と誰のことだと考えてしまう。それくらい動揺した。

(付き合っていたって、それって元カノってこと?)

 裕貴とみどりが寄り添い合って笑う姿を想像してしまい、胃のあたりがギュッとなる。

「まぁ、あの場で昔の話をするわけにはいかないわよね。だからきっと仕事終わりにふたりで会うことに決めたのかもね」

 草野はちょっとした世間話のつもりで、話をしているにすぎない。けれどそれは沙衣を不安にさせるには十分だった。

 裕貴は間違いなく仕事だと言って、今日の予定をキャンセルしたのだ。だからその言葉を信じていればいいのに、それができずにいる。

「あら、ごめんね。色々と話混んじゃって。じゃあ」

「はい」

 最後の方は話がまったく耳に入ってこなかった。
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