エリート上司の過保護な独占愛
 なんとか気を取り直して、仕事をしなくてはならない。けれどパソコンのキーボードに置いた指がいっこうに動いてくれない。

 裕貴のことを信じればいいと思うものの、不安を消すことができずに「どうしよう、どうして?」という言葉が胸の中に渦巻く。

「え……沙衣、ちょっと聞いてる?」

「えっ? は、ハイ」

「もう仕事終わったなら帰るわよ。ちょ、ちょっとどうしたの?」

 椅子から立ち上がった絵美が、沙衣の青ざめた顔を見て驚いた。

「絵美さん……」

 本来なら心配をかけないようにしないといけない。そんなこと十分わかっているけれど、それができない。

「今日やらなきゃいけない仕事は終わってるの?」

「はい」

「じゃあ、片付けて。とにかく! 話を聞くから」

「ありがとうございます」

 絵美の気持ちに甘えることにして、これ以上先に進みそうもない仕事を片付けて、会社を出た。
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