エリート上司の過保護な独占愛
 目の前に立つ天瀬裕貴(ゆうき)は、紗衣が勤める会社、繊維専門商社・株式会社ミカドで、彼女の所属する原料部・第一課の課長である。端的に言えば、彼女の直属の上司だ。

 紗衣は隣に立つ裕貴をちらりと盗み見える。いつもは寸分の狂いもないほどビシっとスーツを着こなしているが、今日は仲間内だけの婚約パーティということでジャケットは羽織っている。しかしいつもと違って、ネクタイもしておらずボタンは上からふたつほど開いていた。けれどカジュアルすぎないと感じるのは、胸のポケットから覗くチーフのおかげだろう。

(結局かっこいい人は何を着ても、様になるんだ……。)

 身長が百八十センチ以上もある裕貴は、どこにいても目立つ。それは長身だけが理由ではなかった。優しい目元に、スッと通った鼻筋、形の良い唇。だれもが振り返ってしまうほどの完璧な男性だった。加えて仕事もでき、人当たりもいい。そんな彼の周りには、いつも人で溢れかえっていた。

(かたや自分は……。)

 紗枝は、ふと自分の容姿について改めて考えてみた。

 チャレンジできずに、ただ伸ばしただけの黒髪。手入れはしているけれど、やぼったさは否めない。それに加え十人並みの顔立ちで、一度見たくらいでは誰の印象にも残らないのではと自分でも思うほどだ。

 そのうえ目が悪く、小学生のときからずっと眼鏡をかけているせいか、おとなしく見える――まぁ、実際その通りの性格なのだが。
 
 少し自虐めいた紗衣を現実に引き戻したのは、隣に立つ裕貴だった。
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