エリート上司の過保護な独占愛
 レジ前でしっかり、自分の欲しかった新刊も手にして三冊分の会計を終わらせると、併設されているカフェに向かった。

 さっさと帰ってしまおうとも思ったが、買ったばかりの本を読みたいという誘惑に勝てず、少し休憩して帰ることにした。

 満席に近かったが、二人掛けのテーブルがちょうど空いた。沙衣はホットのキャラメルラテを手にして、そこに座るとさっそく先ほど包んでもらったばかりの本を取り出した。

 そこには千九百年代から現在までの様々なテキスタイルが掲載されており、織物・レース・ニットなど眺めているだけでも楽しい。甘いコーヒーを片手に、夢中になって読みふけっていた。

 カップに手を伸ばし、ひと口含んだ。読んでいるうちに、幾分冷めて飲みやすくなったキャラメルラテの甘さと香ばしさが口の中にひろがる。

 もう一度、本の世界に入り込もうとしたときひとりの男性の姿が眼に入る。相手も紗衣に気がついたようで、一瞬驚いたが表情を柔らかくしてこちらに近づいた。

「本城――昨日と同じ服だからすぐわかった」

「えっ……か、課長」

 驚きで声が掠れてしまう。コホンと席をして姿勢を正した。

「こんにちは、あのーー」

 驚いてはいたがすぐに昨日の失態を思い出し謝ろうと思うが、なかなか言葉にならない。しかしそんな沙衣を気遣い先に裕貴が口を開いた。

「昨日はあれから、大丈夫だったか? 二日酔いにはなってないか?」

 迷惑をかけたのは沙衣なのに、裕貴はそんなこと気にするそぶりも見せず逆に彼女を心配している。

「私、ずいぶんご迷惑をおかけしたようで。本当に申し訳ありませんでした」

 テーブルに頭が付きそうな勢いで謝る紗衣を見て、裕貴は慌てて顔を上げさせた。
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