エリート上司の過保護な独占愛
「じゃあ、ちょっと注文してくる。これ、ちょっと見ておいて」

 おそらく買ったばかりの本だろう、袋に入ったそれをテーブルに置くと、裕貴はオーダーカウンターに向かって歩いていった。

 紗衣はその背中を見送りながら、今起こったことを信じられない思いで振り返る。

 (まさか、天瀬課長がここにいるなんて……すごい偶然)

 これまで三年間、プライベートではほとんど会話をすることがなかった憧れの上司。それがまさか、こんな形で一緒にお茶を飲むことになるなんて、奥手の紗衣にとっては大事件である。

 勢いで了承したものの、今になって緊張してきた。絵美の部屋から直接ここに来たので、洋服も昨日のパーティで身に着けていたワンピースのままだったし、化粧もいつもにまして適当だ。

「悪い、時間がかかって」

 声をかけられてはっと我に返ると、トレーを持った裕貴が少しくたびれた顔で椅子に座った。

「すごい人だな。オーダーするのにも結構時間がかかった」

 そう言って置いたトレーの上には、コーヒーとドーナツが二種類乗っていた。

「これ、待たせたからどっちか好きなほう選んで」

 そういって、トレーをすっと紗衣の方に差し出した。
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