エリート上司の過保護な独占愛
沙衣のマンションは、会社の最寄り駅から五駅ほど離れた場所にある。下町の雰囲気が残る場所で、商店街を抜けたところにある十階建てのマンションの六階に沙衣の住む部屋があった。
大学時代から一人暮らしをはじめて今年で七年目。寂しいと思うこともほとんどなくなった。
鍵を玄関の棚の上にある銀色のトレーに置くと、返事のないことがわかっているがとりあえず「ただいま」と声を発した。
リビングのテーブルにバッグを置くと、絵美に頼まれた本が目に入る。もとはといえば、この本を買いに行ったおかげで裕貴と偶然に会うことになったし、その後の会話も続いた。
偶然だとしても、そのきっかけを作ってくれたのだ。
今朝、裕貴への思いを絵美に打ち明けた。そのときの背中を押してくれた彼女の言葉を思い出し、今日のことを報告したくなった。
バッグからスマートフォンを取り出すと、早速絵美に電話をかけた。
三回目の呼び出し音の後《もしもし》と絵美の声が聞こえた。背後からはテレビの音が聞こえる。