エリート上司の過保護な独占愛
「絵美さん、今ちょっとお時間大丈夫ですか?」

≪うん、全然おっけー!≫

 その返事を聞いて、書店での出来事を話した。興味津々という感じで先を促され、もちろん最初からそのつもりだったのだが、一切合切を話してしまった。そして話の最後に絵美が発した。

≪で、これからどうするつもり?≫

「どうするって……」

 正直、今日裕貴と話をできただけでも、沙衣にとっては事件であり大進歩だ。この先のことなどまだ何も考えていない。

≪今日初めて課長と仕事以外の場所で会って、話をしてどう思った? そこで沙衣は満足なの? 課長が海外に行くの、指をくわえてみてるつもり?≫ 

 そう問われて、はたと考える。確かに楽しかったのは事実だ。しかし上司と部下という関係の枠からは一歩も外に出ていない。関係性から言えばなにもかわっていないのだ。

「私、もっと課長とお話したいです。欲張りかもしれないけど、もっと課長のことを知りたいし、私のことも知ってほしいです」

≪その言葉を待っていたのよ!≫

 沙衣の言葉に、絵美は言葉をかぶせた。まるで自分のことのように興奮していた。

≪今回、課長と本屋さんで会ったのって偶然だと思う?≫

 「どういう意味ですか?」

 待ち合わせなどしていなかったのだから、偶然に決まっている。沙衣はそう思った。

≪私、わざわざあの本屋であの本を買ってきてほしいって頼んだのは、課長がいつもあそこを利用しているって知っていたからよ。それにその作家のファンだってことも知ってたの≫

「え、そうだったんですか!?」

≪そう。だから、沙衣にお願いしたの。でも課長が本当に今日来るかどうかは知らなったわ。だから偶然ともいえるわ≫

 「その通りだとは思いますが……」

 偶然だからこそ、運命的なことを感じていた沙衣はなんとなくがっかりした。それが絵美にも伝わったのだろう。
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