エリート上司の過保護な独占愛
「今日は髪、おろしてるんだな」

( 気がついてくれたんだ……。)

 紗衣は仕事中は髪をまとめている。その方が仕事に集中できるからだ。ただ今日はおめでたい席だし、せっかくおしゃれしたので髪もそれにあわせておろしたのだった。

「はい。あの、せっかくなので」

 何がせっかくなのだ。これだけではまったく、どうして髪を下ろしたのかが伝わらないではないか。そう思うものの、普段は仕事の話しかしない皆の憧れの上司に、口下手な紗衣があれこれ話をすることは、なかなか難しい。

 もっと話をしたいと思っているが、焦れば焦るほどうまく言葉が出てこない。

( 仕事の話なら、ちゃんとできるのにっ!)

 そんな紗衣の様子をわかっているかのように、裕貴は言葉がたりない紗衣をフォローするように話を続けた。

「今日の服に合わせたんだな。本城によく似合ってる」

 普段はあまり身に着けないワンピースを褒めてもらえ、うれしくなる。

「あ、あの。ありがとうございます」

 顔をあげてお礼を言うと、裕貴の視線とぶつかり途端に恥ずかしくなった。瞬時に赤くなってしまった顔を隠そうと、すぐに顔を背けてしまう。

( 失礼だったかもしれない。)

 そう思った紗衣は、裕貴の顔をチラリと覗き見た。なんだかムッとした表情をしたように見える。

( やっぱり、気を悪くしたんだ。どうしよう……。)

 どうすればいいのか、何も思い浮かばない。ただおろおろするだけだ。

「本城」

「はいっ!」

 パニックになっていたところ、いきなり名前を呼ばれて勢いよく返事をしてしまった。裕貴は少し驚いた顔をしたけれど、ふっと笑った。

「俺、三谷に声かけてくるけど、本城はどうする?」

 そう言われ、本日の主役のふたりの方を見るとまだたくさんの人に囲まれて話をしていた。
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