エリート上司の過保護な独占愛
 入社以来営業担当は交代しても、沙衣はずっとこの企業を担当してきた。いつもやりとりをする先方の担当とも、世間話をする仲だ。

 トラブルがあった話など聞いていなかった。だからこそ、余計気になってしまう。

「おはよぉございまぁす」

 沙衣の向かいの席に座る、山下佑香(やましたゆうか)が気だるげに挨拶をしながら座った。

 (もうそろそろ始業時間か……急がなきゃ)

 「おはようございます」と返事をして、先の企業が気になっていたもののキーボードを打つ手を速めた。
 
 そして瞬く間に時間は過ぎ週末の土曜日。よほどのことのない限り週休二日の沙衣と絵美は、ショッピングビルの開店に合わせて待ち合わせをしていた。
 
 駅前の比較的人の少ない場所で待っていると、すぐに前方から歩いてくる絵美を見つけた。

「すみません、結婚前の忙しい時期に」

「いいの、いいの。沙衣のためなら何肌でも脱ぐわ。さて、時間がないからさっさと行くわよ」

 恋愛に一歩を踏み出そうとした矢先に、さっそく躓いてしまった沙衣。助けを求めた絵美は、あの本に書いてある項目【恋はみかけも大事です】を実践することをまずは沙衣に勧めた。

 歩きながら不安になり、沙衣は絵美に話しかける。

「あの〝みかけ〟っていったい何をどうするつもりなんですか? 正直私みたいなのが――」

「はい、その〝私みたいなのが〟禁止―! それ前から言ってるけど次言ったら怒るからね。まずは自分に自信を持つこと」

「でも、相手のためにおしゃれして気に入られようなんて、なんだか違うような気がして……」

 かわいい恰好はかわいい子がするから成立するのに、無理して背伸びしても仕方がない気がする。
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