エリート上司の過保護な独占愛
***

 紗衣が劇的な変化を遂げたその週末――。

 裕貴は慎吾とお互いの会社のほぼ中間地点にある、行きつけの居酒屋でビールのジョッキを傾けていた。

 いつもきちんと結ばれているネクタイは緩められていて、リラックスしている姿が見て取れた。

「っはー、旨い」

 慎吾は思わず声に出すほど喉が乾いていたようだ。裕貴も顔を崩して、よく冷えたビールの喉越しを楽しんでいる。

 お互いジョッキを置くと、お通しのきゅうりとクラゲの酢の物を口に運んだ。その間に『いつもの』と言って頼んでいた料理が次々と届き、お互い箸を伸ばした。

 今日は絵美を誘って振られた慎吾が、代打とばかりに裕貴を誘った。ふたりで会うときはいつもこの居酒屋だ。酒も料理も美味く、お互いひとりでもよく通っていた。

「お前、濱中に断られたからってわざわざ俺を呼びださなくてもいいだろ」

 箸でエビマヨをつまんで口に放りこみながら、裕貴が不満気に漏らした。

「別にいいだろ、週末だってどうせ仕事しかしてないんだろ。寂しいやつだ」

 つき合わせておいて、この言いぐさである。お互い気心はいやと言うほど知れているが、いかがなものか。

「誰が寂しいなんて言った。たとえそうだったとしても、絶対にお前だけは頼らん」

 ますます不機嫌になった裕貴に、慎吾がたしなめるように「まぁまぁ」と声をかけた。

「で、最近どうなんだ?」

 興味津々といった様子で慎吾がテーブルに乗り出し尋ねる。

「何が? 仕事ならびっくりするくらい順調だぜ」

「そんなのいつものことだろ。あ、そうだ海外赴任の話はどうなったんだ」

「今のところ、未定。まぁいつかは行くだろうけど」

 適当にあしらったが、ミカドでは出世に海外勤務経験は必須だ。おそらく実績からいって裕貴にも近々打診があるはず。しかし今のところそういった話は出ていない。

「また謙遜して。将来の取締役候補だって絵美から聞いてるぞ」
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