エリート上司の過保護な独占愛
「そんな、警戒しないで。君、絵美さんの後輩なんだよね? 実は俺、三谷さんの会社の後輩で――」

 いきなり自己紹介を始められてしまい、沙衣はただそれを「えぇ」と聞くしかできなかった。

「それで、ここ来たときからずっと気になってて」

 何がそんなに気になったというのだろうか。こんな華やかな場所ではやはり自分は浮いてしまうのだろうか。

「す、すみません。あの……」

 沙衣が口を開きかけたとき、ふたりの会話を割って声がかけられた。

「本城、ほら。ふたりにお祝い言いに行くぞ」

「え、天瀬課長? でもさっき――」

「ほら、今少し人が少ないからチャンスだろ」

 たしかにさっきよりも、主役のふたりのところにいる人が減っていた。

「行くぞ」
 
 裕貴が、沙衣の手首をつかみ多少強引にその場から動くよう促した。

「あの、はい。あ、失礼します」

 先ほど話かけてきた三谷の後輩に頭をさげ、沙衣は裕貴に手をひかれ絵美と慎吾のもとに向かう。

 お祝いを言いにいくのが目的なのに、握られている手が気になって仕方ない。

 それに、裕貴も気が付いたのか、足を止めてパッと手を放した。

「悪い。勝手にさわって」

「いえ、あの気にしないでください」

 赤くなっている顔を見られたくなくて、俯く。

「ほら、ちゃんとお祝い言ってこい。いつまでも壁際にいたら、パーティ終わるぞ」

 たしかに、もうまもなくおひらきの時間だ。裕貴の気づかいに感謝する。

「あの、ありがとうございます。いってきます」

 沙衣はお礼を言うと、絵美の元に向かった。
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