エリート上司の過保護な独占愛
(楽しそうだな、これなら行ってもいいかも)

 そう思っていた沙衣の耳元で絵美がささやいた。

「これで、天瀬課長の胃袋もつかんじゃえばいいじゃん」

 まるで悪事に誘惑するような言い方だ。その言葉に素直に感化された沙衣の脳内で、裕貴に手料理をふるまっている自分を想像してしまう。

「……行きましょうか。お料理教室」

「そうこなくっちゃ」

 別に、絵美のささやきに影響されたわけではない。けれど、いつか誰かのために料理をするときに役に立てばいいと思う。

(その相手が天瀬課長だといいな……)

 沙衣はそんなことを思いながら、入会案内の紙を眺めたのだった。



 その日の午後は、月初めということもあり課のミーティングがあった。全体で今月の目標の数字の確認をして、各々伝達事項を伝える。

 みな真剣に取り組んでいるが、殺伐とした雰囲気はない。上司、部下関係なく闊達な意見を交わす。それは何事にもきちんと耳を傾ける裕貴の人柄たるゆえんである。

「で、あとは営業だけで見込み数字のすり合わせをするつもりなんだけど、アシスタントの方から何かありますか?」

 裕貴の言葉に、絵美も佑香も首をふる。沙衣は少し気になることがあったが、この場で言うかどうかためらっていた。

「本城、何かあるのか?」

 そんな沙衣の態度に裕貴は気がついたが、沙衣は「なんでもありません」と答えた。

「そうか。それならいい、じゃあ営業以外は自分の仕事に戻って」

「はい」

 ミーティングルームから女性社員三人が席に戻る。


< 53 / 180 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop