エリート上司の過保護な独占愛
「あ~あ、疲れましたね。打ち合わせきら~い」

 いつも調子の佑香に、絵美が眉をひそめた。不穏な空気にならないように沙衣が絵美に話しかける。

「今日は比較的早く仕事が終わりそうなので、早速申し込みに行きませんか?」

「いいわね。善は急げって言うものね」 

 そんなふたりの会話に、佑香が首を突っ込む。

「おふたりで何か始めるんですかぁ?」

「うん。料理教室にね、行こうかなと思って」

 沙衣の言葉に、佑香が含みのある笑いをする。なんとなく馬鹿にされたような気がした。

「最近の本城さんってぇ、なんかぁ、必死ですよね」

 嘲るようにニヤニヤ笑いながら、言葉を続けた。

「急におしゃれに変身して、この上料理もがんばっちゃうんですね。誰か好きな人でもできたんですか? それともただモテたいだけですか?」

「ちょっと、なんか感じが悪いんだけど」

 我慢できなくなった絵美が、沙衣の代わりに佑香にかみついた。

「こわぁい。もう、怒らないでくださいよ。事実を言ったまでですから。同期の間で言ってたんですよ。急に必死になって、どうしたんだろうって」

 絵美のすごみもどこ吹く風で、きれいに整えた自身の巻き髪をくるくると弄びながら話し続ける。

(〝必死になって〟かぁ。やっぱりそう見えちゃうのか)

 言われていい気はしないが、それが事実だ。沙衣は何も言い返せずにいた。

「もう、おふたりとも、顔が怖いです。ちょっと喉渇いたので、飲み物買ってきます」

 そう言って、そそくさとフロアを出て行った。
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